この記事は、トレンドの原動力を探るマーケティングセミナー「よげんの書」で発表した「よげん」をトピックごとに解説した記事です。よげんの書のウェブサイトから無料セミナーのお申込みや、講演資料やアーカイブ動画をご覧いただけますので、ご関心ありましたらお申込みください。
建築家の信念から学ぶ「豊かさ」の再定義
「レス・イズ・モア(Less is More:少ないほど、豊かである)」という言葉は、近代建築の巨匠ファン・デル・ローエが提唱した、シンプルなデザインの中にこそ美しさと豊かさが宿るという信念です。モノや情報が溢れ、人手不足が深刻化する現代において、この思想は「なくしても、減らしても、幸せになれる体験」を見つけ出すための重要な指針となります。
かつてのマーケティングは「追加すること」ばかりを考えてきました。しかし、過剰な選択肢は生活者を疲れさせます。これからは、本質的でない要素を意図的に削ぎ落とし、本当に大切な価値を際立たせる「選択と集中」のセンスが、企業や個人に求められています。
食品メーカーが進める「定番回帰」の戦略
具体的な変化は既に始まっています。日本の食品メーカーによる新商品の投入数は、5年前に比べて23%も減少しました。物価高によるコスト上昇も一因ですが、無秩序に新商品を出し続ける「多産多死」モデルから、強力な「定番商品」に経営資源を集中させるモデルへの転換が進んでいます。
消費者の選別が厳しくなる中、企業は市場分析と顧客の声に耳を傾け、ラインナップを「厳選」しています。選択肢を減らすことは、開発コストの削減だけでなく、顧客にとっても「本当に良いもの」を迷わず選べるという価値に繋がります。
「縮充」と「地産地消」:公共施設とブランドの新しい形
行政やビジネスの場でもこの動きは見られます。老朽化した施設を統合し、数を減らしながら機能を充実させる「縮充」の考え方です。岩手県盛岡市では、2つの野球場を統合して新球場を整備した結果、利用者数が6,000人から19万人へと劇的に増加しました。
また、イギリスのバッグブランド「ワイルティッシュ」は、生産数を週にわずか25個に制限しています。世界各地の職人と契約し、現地の素材で作る「地産地消」モデルにより、環境負荷を抑えつつ高い品質と製品寿命を実現しています。永く続けられることを優先し、あえて成長のスピードを抑えるという選択は、不確実な時代における新しい「強さ」の形といえます。

