「AIがやりました」という言い訳と謝罪をする人が多くなる|別冊よげんの書:25年4月号より

この記事は、トレンドの原動力を探るマーケティングセミナー「よげんの書」で発表した「よげん」をトピックごとに解説した記事です。よげんの書のウェブサイトから無料セミナーのお申込みや、講演資料やアーカイブ動画をご覧いただけますので、ご関心ありましたらお申込みください。


AIエージェントが「面倒くさい」を引き受ける時代

AIエージェントへの注目がこの数ヶ月で急激に高まっています。ある目的に到達するまで自律的に動き、タスクを完了まで遂行してくれる存在。Google、Microsoft、Salesforceといった世界を牽引するテック企業から大規模なエージェントが投入される一方で、日本のスタートアップからもニッチな目的に特化した小さなAIエージェントが次々と生まれています。

AIエージェントの本質は「面倒くさいことの代行」です。しかもその代行範囲は、個別のタスク処理から、AIとAIが直接やり取りする「A to A取引」へと進化しようとしています。2030年代には1000億ドル規模の市場になるとの予測もあり、企業活動のあらゆる局面にエージェントが介在する未来はそう遠くありません。

その過程では、仮想人としてのAIと対話する取り組みも進んでいます。パナソニックは創業者・松下幸之助の生成AIを作り企業文化の伝承に活用し、伊藤忠商事は社長のAIを研修用に導入しました。AIが人格を持ち、意思決定の一端を担い始める時代がもう始まっています。

監視する権利を手放した先にある落とし穴

AIエージェントがいたるところで活躍し、A to A取引が当たり前になった世界では、何かを「お任せ」する場面が飛躍的に増えます。そして「お任せ」が増えるということは、人間が確認・制御する機会を自ら放棄していくことを意味します。

その結果として予想されるのが、「AIがやりました」という失敗と謝罪の増加だ。便利になればなるほど、人間は監視する権利を手放していく。しかしAIは完璧ではない。ボタンの掛け違い、文脈の取り違え、あるいは先述した「ズルを学ぶAI」の問題が複合的に絡み合い、予期しないエラーが連鎖的に発生する可能性がある。

40年以上前、冷戦時代のアメリカで実際に起きた事例が示唆的です。コンピュータシステムがソ連のミサイル発射を誤検知し、報復攻撃のシステムが自動的に始動しました。AIではなくコンピュータの誤判定だったが、システム同士が連動していたために、一方のエラーがもう一方の行動を即座に引き起こすところでした。辛うじて人間が介入して止めましたが、もし「お任せ」が完了していたら結末は全く違っていました。

「AIがやったんですけど」という枕言葉を捨てる

A to A取引が本格化する2030年代には、人間が仲介する余地はほとんどなくなるかもしれません。そこでの「AIがやりました」は文字通りAIがやっているので仕方がない、という状況も生まれるでしょう。

しかし、今この瞬間において意識すべきことがあります。「AIがやったんですけど」「AIがこれ書いた文章なんですけど」という枕言葉をつけて何かを共有する行為——これは一見誠実に見えて、実は責任を曖昧にする振る舞いです。「AIが書いたから間違っているかもしれない」という免責を相手に押し付けているのと同じだからです。チェックしているのは投げている本人なのだから、枕言葉なしに「この出力どうですかね」と確認する方が、より健全なAI活用につながります。

AIを本当にパートナーや部下だと思って接しているなら、「そいつの仕事の責任は自分が取る」という覚悟が自然と生まれるはずです。AIを使いこなすことと、AIに責任を転嫁することは全く別の行為です。「許す」ことと「任せっぱなしにする」ことの間に、これからの私たちは繊細な線引きを見つけていく必要があります。


「よげんの書」は企業や個人が不確実な時代を生き抜くための道標を提供し、仕事や生活のマーケティングに投影していただけることを目的・目標として主催者の個人プロジェクトとして運営しています。

まずはぜひセミナーをご覧ください。そして「セミナーの共同開催」や、よげんの書をもとにした研修「ミライノミカタワークショップの開催」など、マーケティング活動をご一緒させていただく機会を検討いただける場合はお気軽にお問い合わせください。Driving Forceをともに掴み、未来を一緒に創っていくことができれば幸いです。

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この記事を書いた人

舟久保 竜のアバター 舟久保 竜 よげんの書|主催者

総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査に関わるとともに、2020年から師匠の「大久保惠司 氏」とともに企業のマーケター向けに毎月トレンドを発表するセミナーを継続開催する。2025年、大久保氏の逝去後に「よげんの書」をライフワークとして継続することを決意。

本業は2024年1月から株式会社フィードフォースに所属。企業のコマースサイトを顧客体験基盤やCDPとして活用するためのソリューションのマーケティングに携わる。企業と生活者がモノではなくサービスでつながるための、SDL(サービス・ドミナント・ロジック)の実現を目指す。