食事の「タイパ」と「トキ消費」による新しい価値創造が同時に進む|よげんの書:25年9月号より

この記事は、トレンドの原動力を探るマーケティングセミナー「よげんの書」で発表した「よげん」をトピックごとに解説した記事です。よげんの書のウェブサイトから無料セミナーのお申込みや、講演資料やアーカイブ動画をご覧いただけますので、ご関心ありましたらお申込みください。


「賞味期限5秒」のせんべいに行列! 時短(タイパ)と瞬間体験(トキ消費)が共存する新しい食の価値観

働く人の平日の食事時間が平均89分と過去最短を更新し、ますます「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視した時短食のニーズが高まっています。その一方で、「賞味期限5秒」を謳うお菓子に行列ができるなど、その瞬間にしか味わえない体験価値、いわゆる「トキ消費」にお金を払う人も増えています。

一見、矛盾しているように見えるこの二つのトレンド。実は、これこそが現代の消費者のジョブを解き明かす鍵なのかもしれません。

高まる時短食ニーズと、それを支える企業の工夫

食事にかける時間を切り詰める人が増える中、世界の「レディ・トゥ・イート(すぐに食べられる食品)」市場は今後も拡大が見込まれています。日本でも、食料全体の支出は減少傾向にあるものの、調理の手間が省ける加工食品の需要は増加していくと予測されています。このニーズを支えているのが、ユニークな技術を持つ中小企業です。

  • 細田工業:コンビニなどで売られているカット野菜の品質を支える自動洗浄機メーカー。洗浄から殺菌までを約1時間で完了させ、安全性と小売店の省人化に貢献しています。
  • コスモス食品:無添加のフリーズドライ食品メーカー。独自の製法で素材の風味や栄養素を損なわず、「お湯を注ぐだけ」で手軽に美味しい食事が楽しめると評価を高めています。

彼らの共通点は、単なる「時短」だけでなく、「美味しさ」や「安全性」という付加価値を追求している点です。

「短いからこそ価値がある」トキ消費の世界

タイパを追求する流れの傍らに、あえて「短さ」を売りにする商品も人気を集めています。

  • 有馬温泉「湯の花堂本舗」の炭酸せんべい(賞味期限5秒):焼き立てでまだ柔らかい状態のせんべいを、熱さをこらえながらかぶりつくライブ感が人気です。5秒経つと固まってしまうため、この賞味期限が設定されています。
  • 鳥取「湯ノ塩」の塩どら焼き(賞味期限1分):熱々の生地と冷たいあんこの絶妙なバランスが楽しめるのは、わずか1分間。この儚さが、人々を惹きつけています。

社会の変化が速くなり、「いま」という時間の価値が高まっている現代。普段はタイパを重視するからこそ、休日の特別な時間には「いましかできない体験」に投資したいという心理が働いているのかもしれません。「時短だけど美味しい」「短いからこそ価値がある」。この二つのニーズを捉えることが、これからの食品ビジネスを成功に導くヒントとなりそうです。


「よげんの書」は企業や個人が不確実な時代を生き抜くための道標を提供し、仕事や生活のマーケティングに投影していただけることを目的・目標として主催者の個人プロジェクトとして運営しています。

まずはぜひセミナーをご覧ください。そして「セミナーの共同開催」や、よげんの書をもとにした研修「ミライノミカタワークショップの開催」など、マーケティング活動をご一緒させていただく機会を検討いただける場合はお気軽にお問い合わせください。Driving Forceをともに掴み、未来を一緒に創っていくことができれば幸いです。

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この記事を書いた人

舟久保 竜のアバター 舟久保 竜 よげんの書|主催者

総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査に関わるとともに、2020年から師匠の「大久保惠司 氏」とともに企業のマーケター向けに毎月トレンドを発表するセミナーを継続開催する。2025年、大久保氏の逝去後に「よげんの書」をライフワークとして継続することを決意。

本業は2024年1月から株式会社フィードフォースに所属。企業のコマースサイトを顧客体験基盤やCDPとして活用するためのソリューションのマーケティングに携わる。企業と生活者がモノではなくサービスでつながるための、SDL(サービス・ドミナント・ロジック)の実現を目指す。