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長らく世界の才能を引き寄せてきたアメリカの「磁力」が、政策により弱まっています。旅行者数の減少や就労ビザの規制強化は、アメリカ経済の成長を支えてきた基盤を揺るがし始めています。
入国者数の減少と悪化するアメリカのイメージ
英経済学者「ヘイミシュ・マクレイ」は2023年の著書「2050年の世界」で、アメリカの成長を楽観視できる確かな理由として、「世界中の才能を引き寄せる最も強力な磁石であり続ける」ことを挙げていました。しかし、直近のデータはこの前提が大きく揺らいでいることを示唆しています。
2025年5月のアメリカへの入国者数は、前年同月比2.8%減の269万人となり、コロナ禍以降で初めて減少に転じました。特にカナダからの旅行客の落ち込みが顕著であり、5月は大幅に減少しています。この背景には、トランプ政権による厳格な入国審査や移民取締捜査局の拘束、高関税や挑発的な言動によるアメリカのイメージ悪化といった心理的要因が含まれます。世界旅行ツーリズム協議会は、2025年の観光収入が約1.8兆円減ると見積もっており、世界184カ国の中でアメリカのみ海外客数がマイナスとなるなど、この傾向は象徴的です。
高度外国人技術者向けビザ規制による人材流出の懸念
さらに、高度な外国人技術者向けの就労ビザ「H-1B」に対する規制が強化されました。ビザの取得に対して約1,480万円という大きな手数料が課される大統領令が発令されています。これにより、AmazonやMicrosoftといったビッグテック企業や、アメリカで活動するインド企業などが人手不足に陥る可能性が指摘されています。発行上限も年間8万5,000件と限定されているにもかかわらず、2025年度の応募は47万人に達しており、優秀な人材の受け入れが物理的に難しくなっています。
「強力な磁石」から「反発する磁石」への転換
これまでの「アメリカは世界中の才能を引き寄せる最も強力な磁石であり続ける」という前提 は、今や「反発する磁石」へと対極に動いたとの見方もあります。これまでアメリカに引き寄せられていた優秀な世界中の才能が「弾き出される」状況が生まれつつあります。これは日本を含む他国にとって、世界一の強力な磁石から弾き出された才能をどう扱うか、そして「どのような磁石であるべきか」を考える機会となるでしょう。

