この記事は、トレンドの原動力を探るマーケティングセミナー「よげんの書」で発表した「よげん」をトピックごとに解説した記事です。よげんの書のウェブサイトから無料セミナーのお申込みや、講演資料やアーカイブ動画をご覧いただけますので、ご関心ありましたらお申込みください。
半導体戦争に続き、「工場戦争」(工業力と生産力の主導権争い)が始まっています。AIの学習データがインターネット上のものを使い尽くしつつある今、オフラインの現場データ、特に日本が持つ製造現場のデータや、世界で動く日本製品(自動車2億台など)が、次世代AI(フィジカルAI)の学習機会として極めて重要になっています。
工業力と生産力をめぐる「工場戦争」の勃発
タフツ大学のクリス・ミラー教授は、世界の競争の焦点が半導体戦争から「工場戦争」へと移行しつつあると指摘しています。工業力と生産力の主導権争いであり、アメリカは製造業の国内回帰を急いでいます。これは工業力と国力が同義とみなされた1930年代に似た状況だと指摘されており、現代はAIを活用した高生産な新次元の工業力を築き直す構想が始まっています。
AI学習の鍵となる工業現場のオフラインデータ
圧倒的な稼ぐ力と投資力を持つ米国のビッグテック企業(GAFAM)にも弱点があります。それは、工業力との接点の薄さです。AIの学習はインターネット上のデータがほぼ使い尽くされ、これからは製造現場から得られる「オフラインのデータ」が価値を生み始めます。地球上に存在する全データのうち、ネット上にあるのはわずか1割ほどだと言われています。
高性能なロボット(テスラは価値の8割をロボットが生むと宣言)や「フィジカルAI」を開発するには、ネット上に出回ることのない、現場の「経験知」や「暗黙知」といった質の高いオフラインデータをAIに学習させる必要があります。
日本が持つ豊富な現場データを価値に変える必要性
日本は製造現場のオフラインデータが豊富であり、世界で動く日本製品群(例:自動車2億台)はAIの新たな学習機会となる可能性があります。ソフトバンクがABBのロボット事業を取得に動くなど、製造を軸にAIと現場を結ぶ新しい基盤作りが急がれています。
しかし、この日本の現場データを狙う海外からのアプローチも既に始まっています。海外IT企業が中小企業に対し、無償AI提供と引き換えにデータ取得を狙うケースがあるのです。日本企業にとって、現場のデータは単に守るだけでなく、企業価値につなげるための競争優位性の源泉となります。現場のデータにいかに付加価値を見出し、次世代のテクノロジーの基盤として活用していくかが、今後の競争を左右するでしょう。

