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流行語大賞が映し出す「覚悟」と「逆行」の議論
2025年の流行語大賞に、高市首相の「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」というフレーズが選ばれました。これは首相としての覚悟の象徴と受け止められた一方で、これまでの「働き方改革」に逆行し、長時間労働を肯定するものではないかという議論を呼びました。昭和世代の「仕事とはそういうものだ」という共感と、若年層や専門家の「健康への懸念」が入り混じる複雑な反応は、現代の労働観の揺らぎを象徴しています。
労働時間規制の緩和と生産性のジレンマ
政府内では、特定の職種における残業上限の引き上げや、労働時間規制の緩和に向けた議論が始まりました。背景にあるのは、働き方改革が進んでも日本の労働生産性がOECD加盟国中29位と低迷したままであるという厳しい現実です。しかし、「人手不足だからもっと働こう」という発想では長期的に人は持ちません。限られた時間でいかに成果を出し、豊かさを両立させるかというDXの視点が欠落していることが課題です。
イギリス・ドイツでも噴出する「働けない・働かない」問題
この葛藤は日本だけではありません。イギリスでは健康問題を理由に働かず給付金で暮らす人が生産年齢人口の1割を超え、経済停滞の要因となっています。ドイツでも手厚い病欠制度により、1人当たりの年間病欠日数が24.9日に達し、3年連続のマイナス成長という危機に直面しています。かつての経済優等生たちも、「過度な保障による意欲減退」と「生産性の停滞」の間で、福祉と労働の再設計を迫られています。
労働の「量」から「豊かさ」への視点転換
世界中で「働いて働いて」という圧力が再び強まりつつありますが、それは単純な労働時間の延長であってはなりません。今、求められているのは、AIやテクノロジーを駆使して「無理なく成果を出す」仕組みづくりと、働くことそのものが個人の幸せに繋がる「豊かな働き方」の定義です。私たちは今、労働時間の量で競う時代から、労働の質と個人の豊かさを競う時代への分岐点に立っています。

