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アフォーダビリティとは、無理なく負担できることを意味する
商品やサービスに関心があっても、費用や利用に必要な時間を考えると、生活に取り入れにくいことがあります。
新しいサービスの使い方を覚える、複数の選択肢を比較する、関心のある情報を継続的に確認する。こうした行動には、金銭以外の負担も伴います。商品やサービスの価値を考える際には、利用者が負担できる範囲にも目を向ける必要があります。
「アフォーダビリティ(Affordability)」は、一般に、所得などに照らして無理なく費用を負担できることを意味します。住宅や生活必需品が、必要とする人の手に届くかを考える際の言葉です。安いか高いかだけでなく、使えるお金との関係が問われます。
例えば住宅なら、物件価格や家賃が安いというだけでは、アフォーダビリティが高いとは言い切れません。住居費を支払ったあとに、食費や光熱費など、ほかの生活費を確保できるかが大切です。同じ家賃でも、所得や家族構成によって負担感は変わります。OECDも、住宅の負担可能性を見るために、所得に対する住宅価格や住居費の割合などを用いています。「いくらか」だけでなく、「誰にとって、無理なく払えるか」を考える言葉なのです。
参考:OECDの住宅アフォーダビリティ指標
暮らしの中で実践する方法としては、買い物で必要な品質を満たす手頃な商品を選ぶ、利用頻度の低いサブスクリプションを見直す、家電を購入するときに本体価格と電気代や修理費を合わせて比較する、といった行動が挙げられます。目先の支払額に加え、使い続ける間の負担まで確かめることが、この視点の実践になります。
企業や行政にもできることがあります。企業なら、基本機能に絞った手頃なプランを用意する、修理して長く使える商品をつくる、追加料金を含めた総額をわかりやすく示す。行政なら、手頃な家賃の住宅の供給や、必要な人への費用支援に取り組む。生活者が支出を調整することと、提供する側が手の届く条件を整えること。その両方によって、必要なものを無理なく利用できる状態に近づけます。
この記事では、その視点を時間や気力、人間関係にも広げて考えます。これは言葉の一般的な定義を超えた、社会の変化を捉えるための解釈です。費用を支払えても、利用に必要な時間や心理的な負担が大きければ、継続は難しくなります。
VUCAと呼ばれる変化の速い環境では、「過剰でないこと」「ファナティックにならないこと」を意識し、状況を観察して行動する姿勢が重要だと考えます。関心や愛着を持ちながらも、自分や相手にかかる負担を確認し、必要に応じて関わり方を調整する。その判断基準として、アフォーダビリティを捉えることができます。
アフォーダビリティは、レス・イズ・モアという考え方にもつながります。過剰な機能やサービスを減らし、必要な価値を維持することで、利用者と提供者の双方の負担を抑えられます。レス・イズ・モアを価値の提供方法、アフォーダビリティを無理なく利用・提供を続けられるかを判断する視点として整理できます。
アフォーダビリティの視点から、社会・生活の変化を読み解く
社会・生活の変化や事例①:
スポーツの贅沢化が、費用による参加機会の差を広げる
スポーツの観戦や子どもの習い事への参加には、家計の余裕が影響します。継続的な参加に必要な費用が増えれば、所得による機会の差も生じやすくなります。
スポーツ観戦の有料配信への移行に加え、チケットや習い事、用具の費用上昇が、楽しみに参加するハードルを高めています。12〜19歳の生観戦率は、2023年に30.5%。10年余りで10ポイント以上低下しています。観客数全体の動向と、若い世代が参加できる機会とを、分けて見る必要があります。
ここで考えたいのは、費用負担によって参加機会にどのような差が生じるかです。高額な体験の提供が増える一方で、低い費用で参加できる機会が減れば、新たな参加者や観客との接点が少なくなる可能性があります。
アフォーダビリティを改善するには、個人の支出調整に加え、提供側の対応も必要です。初めて参加する人や、予算が限られる人にも利用できる選択肢を用意することが、参加機会の確保につながります。
事業の評価においても、高額な体験の販売実績と、幅広い層が参加できる環境の維持を、あわせて確認する必要があります。
社会・生活の変化や事例②:
おもてなしを減らすことで、旅の自由と働く余裕が生まれる
宿泊者が求めるサービスは、旅行の目的や過ごし方によって異なります。丁寧な説明や食事の提供を必要とする人もいれば、自分の予定に合わせて過ごすことを優先する人もいます。サービスの量と満足度は、必ずしも比例しません。
人手不足に直面する宿泊業では、受付や食事の提供方法を見直す動きが広がっています。アパホテルの自動チェックインや、楽天ステイの素泊まり主体の施設は、その具体例です。食事を宿泊から分けることは、宿泊者が自分の都合で食べる時間や場所を選べることにもつながります。
この変化は、提供者と利用者の双方が負担できる範囲を見直す動きと捉えられます。スタッフが対応できる仕事量には限界があります。宿泊者にも、説明を聞き、指定された時間に行動する負担がかかります。サービスの追加が、双方の負担を増やしている場合もあります。
ただし、必要な支援まで減らせば、利用しにくくなる人もいます。利用者の状況に応じた支援を確保したうえで、省略できる業務や選択制にできるサービスを検討する必要があります。
サービスを追加する効果と、省略しても満足度を維持できる範囲を比較する。こうした見直しは、レス・イズ・モアを宿泊体験の設計に取り入れる具体的な方法です。
社会・生活の変化や事例③:
食品の定番回帰が、選び続ける負担を軽くする
新商品は、生活者が新しい味や使い方を試す機会になります。一方で、日常の買い物では、品質や使い方を把握している定番商品を継続して購入できる利便性もあります。
食品メーカーでは、新商品を絞り、定番商品に経営資源を集中させる動きが見られます。2025年時点では、新商品の投入数が5年前に比べて23%減少していました。コスト上昇への対応とともに、次々につくっては入れ替える商品展開を見直す動きと捉えられます。
生活者にとって、定番商品の継続的な提供は、選択にかかる手間の削減につながります。新商品を選ぶ際には、情報収集や比較、試用が必要です。使い慣れた商品であれば、そうした判断の一部を省けます。
選択肢の削減が、誰にとっても歓迎されるわけではありません。食物アレルギーへの対応や好みの違いなど、残すべき多様性はあります。そのうえで、似た商品を増やすために費やしていた力を、品質や安定供給に振り向けることが考えられます。
新商品の投入数に加え、定番商品の品質や入手しやすさも、顧客にとっての価値になります。開発や販売にかかる負担と、選択にかかる負担をあわせて見直すことができます。
社会・生活の変化や事例④:
推し活では、参加者の負担に配慮した設計が必要になる
推し活は、娯楽や交流の機会となり、旅行や買い物の動機にもなります。継続的な消費を支える活動であるため、参加者の費用や時間の負担にも注意が必要です。
推しに関連する特典を提供するクレジットカードや、旅行と応援を組み合わせた「推し旅」など、応援の気持ちに応える商品やサービスが広がっています。一方で、関連するコンテンツ支出者が減るなか、熱心な層の支出が全体を押し上げる構造も見られます。
売上が伸びていても、参加者が増えているとは限りません。一部の参加者による支出増加が、売上を支えている可能性もあります。この状態で購入や参加をさらに促すと、費用面だけでなく、応援を続けなければならないという心理的な負担が増すおそれがあります。
公演への参加頻度やグッズの購入額を予算に合わせて調整し、忙しい時期には活動を減らす。こうした関わり方を選びやすくすることは、長期的な参加を支える条件になります。
ファナティックにならない姿勢とは、関心のある対象に過度に傾倒せず、生活全体の支出や時間配分を判断できる状態を保つことです。企業側も、支出額を愛着の強さと同一視せず、顧客が無理なく参加を続けられる料金や販売方法を検討する必要があります。
社会・生活の変化や事例⑤:
パラソーシャルな関係には、安心して離れられる距離が必要になる
配信者やブランドの発信を継続して見ることで、直接交流したことのない相手にも親近感が生まれます。このような関係は、商品やサービスの選択にも影響します。
「パラソーシャル」は、相手との相互的な関係がなくても、親しみや愛着を感じる心理的な関係です。セレブリティが関わるD2Cブランドや、企業の「中の人」による発信では、人物への信頼が商品への信頼につながっています。
親しみは、安心して選ぶ助けになります。しかし、発信を欠かさず追いかけたり、相手の意見をすべて受け入れたりするほどの近さを求められれば、関係を保つための心理的な負担は大きくなります。
利用者が、情報に触れる頻度や反応する範囲を自分で調整できることが重要です。発信者と意見が異なったり、一定期間利用を休んだりしても関係を続けられる設計は、愛着を持ちながら自分で判断する余地を確保することにつながります。
マーケティングでは、接触頻度や反応率を高めることに加え、利用者が関わり方を選べるかも評価する必要があります。通知の頻度や参加の呼びかけを調整し、継続的な反応を求めすぎないことが、心理的な負担を抑える方法になります。
過剰さを手放し、無理なく続く豊かさをつくる
5つの事例に共通するのは、商品やサービスの価値と、それを利用するための負担をあわせて考える必要性です。価格だけでなく、時間、選択の手間、心理的な負担も、利用の継続に影響します。
過剰でないことは、必要な機能やサービスと、追加による負担を見極めることです。ファナティックにならないことは、関心や愛着を持ちながらも、状況に応じて行動を調整できることです。レス・イズ・モアは、この調整を商品やサービスの設計に反映する方法として位置づけられます。
ただし、必要なものや負担できる範囲は、人によって異なります。すでに必要な商品やサービスを利用できていない人に、さらなる削減を求めることは適切ではありません。利用機会の確保と過剰な負担の削減を、並行して進める必要があります。
企業やブランドにとっては、顧客が支払える金額、使える時間、継続できる関与の程度を把握し、提供内容を調整することが実務上の課題になります。アフォーダビリティは、顧客との関係を無理なく維持するための判断基準としても活用できます。






