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NVIDIAのGPUが牽引するAI半導体市場は絶好調ですが、その高性能化とAI需要の爆発的な増加により、消費電力が飛躍的に増大しています。この電力需要が、数十年間進化してこなかった米国の電力供給能力を上回る可能性があり、半導体の成長の持続可能性に「電力の壁」が立ちはだかっています。
GPU「ブラックウェル」が牽引するエヌビディアの快進撃
AI半導体市場は、NVIDIA(エヌビディア)の快進撃が続いています。2025年5〜7月期の売上は約7兆円(470億ドル)に達し、市場予想を上回り、四半期ごとに上振れが続いています。最先端GPU「ブラックウェル」やCPU併用のスーパーチップ「GB」がAI開発需要のニーズに支えられ、爆発的に売れています。時価総額も4兆ドルを突破したばかりですが、すぐに5兆ドルに達するという観測が強まるほどの好調ぶりです。
AI半導体の高性能化による電力需要の爆発的増加
しかし、この絶好調な成長に思わぬ課題が浮上しています。それは電力供給の壁です。これまでの半導体は、性能向上に伴ってエネルギー効率も改善していたため、データセンターの総電力使用量は横ばいを維持できていました。しかし、AIに対応する、高性能なブラックウェルなどの半導体は、非常に多くの電力を消費します。AI学習用データセンターでは、非AI向けに必要だった電力(1ラック約12kW)に対し、LLM学習では最大で80kWが必要になるなど、電力需要が跳ね上がっています。
電力供給能力の壁とデータセンターによる自前電源の模索
問題は、NVIDIAが2024年〜2026年に販売する半導体が米国内で稼働すると想定した場合の電力必要量(+25GW)が、数十年間進化してこなかった米国の電力会社が2022年に追加した総発電容量のほぼ2倍に匹敵するということです。もし半導体の販売ペースが続けば、電力の追加量が追いつかず、販売された半導体が使われない(死蔵される)状況が生まれる可能性があります。
この「電力の壁」に対処するため、電力会社はチャットGPTが発表されて以降、設備投資を加速しています。また、GoogleやMetaといったデータセンター側も、太陽光と蓄電、あるいは自前のガス火力発電などを利用して自前電源を模索し始めています。企業や個人も、電力供給が不安定になるリスクに備え、再生可能エネルギーの活用意識を高め、準備を進める必要があるという示唆が得られます。

