公平な人事評価をAIに委ねる組織が増える|別冊よげんの書:25年4月号より

この記事は、トレンドの原動力を探るマーケティングセミナー「よげんの書」で発表した「よげん」をトピックごとに解説した記事です。よげんの書のウェブサイトから無料セミナーのお申込みや、講演資料やアーカイブ動画をご覧いただけますので、ご関心ありましたらお申込みください。


人手不足が突きつける「人が残りたくなる組織」の必要性

日本の労働市場は限界に近づいています。2024年の就業者数は34万人増加し過去最高を記録しました。女性やシニア層の活躍支援によって数字上は成長しているように見えるが、潜在的に「これから働ける」余力は31万人と過去最低水準にまで低下しました。次に同規模の雇用を確保しようとしても、もう物理的に難しい状況です。人手不足関連の倒産は289件を記録し、「人がいれば稼げたはずの会社」が市場から退場していく事態が現実のものとなっています。

こうした状況下で企業に求められるのは、AIで生産性を高めるという攻めの施策だけではありません。今いる人材がこの組織に留まりたいと思えるか、新たに人を迎えたい時に魅力を感じてもらえるかという「人事」の質が、企業の存続を左右する時代に入っています。

感情が介在しにくい「AIによる評価」の合理性

人事評価は組織運営の中でも特にセンシティブな領域です。不公平感は離職の直接的な原因になりますが、人間が評価する以上、評価者の主観やバイアスを完全に排除することは困難です。悪意がなくても、受け取る側が不公平に感じてしまうケースは日常的に発生します。

ここにAIが介入し始めています。J:COMはコールセンターのオペレーター評価に通話記録のAI分析を導入しました。従来は人間のモニタリング担当が限られた件数を聞いて評価するしかなかったが、AIを活用することで大量の通話データを網羅的に分析し、評価の偏りを排除する仕組みを構築しました。

テルモはAIによる社内人材マッチングシステムを導入し、社員のスキルデータに基づいて最適なポストを提案しています。「本当はもっとこういう仕事がしたい」「今の部署では力を発揮できていない」——そうした声に、上司や人事担当の個人的な判断ではなく、データに基づいたマッチングで応えようとする取り組みです。センシティブな領域だからこそ、感情やバイアスが介在しにくいAIの介入が歓迎されます。逆説的ですが、人の評価を人ではないものに委ねることで、より「人間的な」公平さが実現できる可能性があるのです。

AI同士がやり取りする採用の世界——どこまでが「ズル」か

人事評価だけでなく、採用の現場でもAIの浸透が加速しています。マイナビの調査では、2025年春卒業の学生の4割がすでに就職活動で生成AIを使っています。一方、企業側もローソンが一次面接にAI面接官を導入するなど、双方がAIを武装する状況が進行中です。

アメリカではさらにダイナミックな動きがあります。ワシントン大学の学生はAIを活用して数ヶ月で150件以上の求人に履歴書を作成・応募しました。企業側もAIボットでスクリーニングを行っています。互いにAIが処理している可能性を意識しながら、それでもプロセスが回っている——これはもはやA to A取引の萌芽と言えるでしょう。さらにはディープフェイクで顔写真を偽造してオンライン面接に参加し、コーディングテストを通過した求職者まで現れました。

「どこまでがAIの賢い活用で、どこからがズルなのか」——この線引きは容易ではありません。AIを人間を強化するためのツールだと考えるなら、それを使いこなせる人の方が優秀だという見方も成り立ちます。採用におけるAI活用の良し悪しを断じるのではなく、人事評価と組み合わせることで、求職者にも雇用する側にもフェアな仕組みを設計していく視点が求められています。


「よげんの書」は企業や個人が不確実な時代を生き抜くための道標を提供し、仕事や生活のマーケティングに投影していただけることを目的・目標として主催者の個人プロジェクトとして運営しています。

まずはぜひセミナーをご覧ください。そして「セミナーの共同開催」や、よげんの書をもとにした研修「ミライノミカタワークショップの開催」など、マーケティング活動をご一緒させていただく機会を検討いただける場合はお気軽にお問い合わせください。Driving Forceをともに掴み、未来を一緒に創っていくことができれば幸いです。

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この記事を書いた人

舟久保 竜のアバター 舟久保 竜 よげんの書|主催者

総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査に関わるとともに、2020年から師匠の「大久保惠司 氏」とともに企業のマーケター向けに毎月トレンドを発表するセミナーを継続開催する。2025年、大久保氏の逝去後に「よげんの書」をライフワークとして継続することを決意。

本業は2024年1月から株式会社フィードフォースに所属。企業のコマースサイトを顧客体験基盤やCDPとして活用するためのソリューションのマーケティングに携わる。企業と生活者がモノではなくサービスでつながるための、SDL(サービス・ドミナント・ロジック)の実現を目指す。