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「SaaSの死」──業績は健全なのに株価が暴落する異常事態
AIの進化がソフトウェア業界の地殻変動を引き起こしています。AnthropicのAI「Claude」がコワークという新機能を発表し、様々なソフトウェアと連携してレビューや自動分析を行えるようになった瞬間、主要SaaS企業の時価総額は急落しました。「SaaSの死」という言葉が飛び交い、ソフトウェア企業の存在価値そのものに疑いの目が向けられたのです。
しかし、AdobeやSalesforce、ServiceNowといった企業の経営データを見ると、業績はまだ健全です。大量の解約が起きているわけでもありません。AIが既存のソフトウェアを置き換えるかもしれないという「物語」が先行し、実態よりも期待値が崩壊したことで株価が暴落しているというのが実情です。
ドットコムバブル以来初の「逆転」
象徴的なデータがあります。ソフトウェア企業の予想PER(株価収益率)が20.46倍に対し、S&P500全体が21.71倍。テクノロジー企業の成長期待が市場平均を下回ったのは、2001年のドットコムバブル崩壊後初めてのことです。AI代替懸念で関連ETFは年初来で約2割下落し、20年以上にわたって「ソフトウェア企業は市場平均より成長する」という前提で維持されてきた評価構造が根底から揺らいでいます。
広告業界にも迫る「内製化9割」の波
同じ構造変化は広告業界にも押し寄せています。AIの進化で広告制作や運用のハードルが劇的に下がり、企業の内製化率は9割が着手する段階に入りました。楽天を皮切りに大手企業が内製を本格化し、広告会社の主力事業は減収に転じ始めています。
自社運用に切り替えればスピードが上がり、データも蓄積され、AIがさらに賢くなるという好循環が生まれます。広告会社は創造力や統合力を強みに反論しますが、AI普及で代替圧力は構造的に高まっています。既存のスキルがAIに代替された瞬間、大きな市場であってもその評価は一変します。SaaSや広告会社が体験する変化は、あらゆる知的産業に降りかかる可能性があります。

