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過去最高の内部留保637兆円。なぜ日本企業は投資せずにお金を貯め込むのか?
日本企業の「カネあまり」が、かつてない規模に達しています。2024年度の企業の資金余剰は25.6兆円と11年ぶりの高水準に達し、企業が内部に留保している利益の合計(内部留保)は、過去最高の約637兆円を更新しました。これほど潤沢な資金がありながら、なぜ国内への投資は伸び悩んでいるのでしょうか。そして、この「使われないお金」は、今後どこへ向かうのでしょうか。
お金は国内ではなく海外へ
企業の資金余剰が拡大する一方で、その使い道には大きな偏りが見られます。国内の設備投資などが伸び悩む一方で、海外企業へのM&Aなどを含む対外直接投資は過去最高を記録しているのです。つまり、稼いだお金を国内の成長のために再投資するのではなく、海外に回している企業が多いという実態が浮かび上がります。これは、海外での生産が常態化し、国内産業の空洞化が進んでいることの表れとも言えます。
「カネあまり」企業が増税の的に?
家計の貯蓄が減少し、政府の財政も厳しい中、この豊富な企業資金に注目が集まっています。インフレ対策や家計支援の財源を確保するため、「お金を余らせている企業への法人税増税」が、与野党を問わず現実的な選択肢として議論され始めているのです。石破首相も、過去の法人税減税が賃上げや投資に十分繋がらなかったと指摘しており、企業への負担を求める声は今後さらに強まる可能性があります。
真の課題は「ソフトウェア資産」への投資不足
では、この余ったお金はどこに使うべきなのでしょうか。その答えのヒントは、「労働生産性」にあります。日本の時間あたりの労働生産性は先進38カ国中29位と低迷していますが、その一因として「ソフトウェア資産」への投資の少なさが指摘されています。「ソフトウェア装備率」(労働投入量に対するソフトウェア資産の合計)という指標を見ると、アメリカやイギリスは日本の2倍以上の水準にあります。そして、この装備率が高い国ほど労働生産性も高いという明確な傾向が見られるのです。
人手不足が深刻化し、サプライチェーンの国内回帰が求められる今こそ、企業は余らせた資金をただ貯め込むのではなく、労働生産性を抜本的に向上させるためのソフトウェア投資やDX(デジタル・トランスフォーメーション)に振り向けるべきではないでしょうか。