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FOMO(Fear Of Missing Out)とは
FOMOとは、直訳すれば「取り残されることへの恐怖」であり、日本語では一般的に「乗り遅れる恐怖」と表現されます。この言葉は、自分が知らない間に他人が有益な体験をしているのではないか、あるいは社会的な大きな潮流や利益を得る機会から自分だけが取り残されてしまうのではないか、という強い不安感を指します。
もともとはSNSの普及とともに、他人の華やかな投稿を見て焦りを感じる心理状態を表す言葉として広まりましたが、現在は個人の感情に留まらず、経済行動やビジネス戦略を動かす原動力となっています。例えば、投資や不動産購入といった大きな決断において、「今動かなければ一生チャンスを逃す」という心理が人々を突き動かすケースが目立っています。
また、マーケティングや交渉の場でも、このFOMOの心理は戦略的に活用されています。限定性や期限を設けることで「今すぐ決断しなければならない」という心理的圧力を生み出し、相手を特定の行動へと誘導する手法です。不確実性が高く、情報の流動性が激しい現代社会において、この「乗り遅れる恐怖」は、私たちの消費行動やキャリア形成、さらには国際政治の駆け引きにまで深く根ざしたナラティブ(時代を象徴する物語)となっています。
FOMOが反映された社会・生活の変化や事例
社会・生活の変化や事例①:個人投資の急増と新NISA
現代の日本において、FOMOが最も顕著に現れている分野の一つが個人投資です。長らく「現金大国」だった日本ですが、物価上昇(インフレ)が現実味を帯びる中、現金のまま持っていることへのリスク意識が高まり、「投資をしなければ損をする」「周囲はみんな始めている」という乗り遅れる恐怖が広がっています。 日経新聞の読者調査では、投資実施率が72%に達し、そのうち約3割が2020年以降に投資を始めた「新しい層」であることが示されています。特に新NISA制度の開始は大きなきっかけとなり、20代〜40代の現役世代を中心に、毎月10万〜20万円といった高額な資金を投資に振り向ける人が増えています。これは「老後の資産形成」という長期的な目的に加え、「インフレ対策」として現金の価値が目減りすることへの強い不安、すなわちFOMOの心理が強く反映された結果と言えます。
社会・生活の変化や事例②:若年層による「億ション」購入
不動産市場においても、20代を中心とした若者が1億円を超えるマンション、いわゆる「億ション」を迷わず購入する現象が起きています。彼らの背中を押しているのは、「不動産価格がこのまま上がり続け、二度と買えなくなるのではないか」という取り残される恐怖(FOMO)です。 首都圏の新築マンション購入者に占める20代の比率は16.3%に上昇し、34歳以下の若者が購入者全体の約5割に迫っています。初任給の引き上げを上回るペースで物件価格が高騰しているため、「今が最後のチャンス」という焦燥感が、平均1,250万円もの負債を抱えてでも資産を確保しようとする強気な行動を生んでいます。また、50年といった超長期ローン(フラット50)の利用申請が30歳未満で急増している背景にも、足元の支払いを抑えつつ、まずは「所有の機会」を逃さないという戦略的なFOMOへの対応が見て取れます。
社会・生活の変化や事例③:トランプ大統領による外交交渉術(ディール)
FOMOは個人の消費心理だけでなく、国際政治における交渉戦略としても活用されています。ドナルド・トランプ大統領が各国との関税交渉において用いる手法がその典型です。 トランプ氏は、相互関税などの交渉において「締め切り戦術」や「乗り遅れの不安(FOMO)」を意図的に作り出すことで、相手国に迅速な譲歩を迫る「ディール」を展開しました。例えば、極端に高い関税率を最初に提示(アンカリング)した上で、短期間の猶予を設け、相手国が「このままでは自国経済に壊滅的なダメージが生じる」という恐怖から、アメリカに有利な条件を飲まざるを得ない状況を作り出します。日本やEUが15%の関税と対米投資を受け入れた背景にも、こうした心理的な揺さぶりと、交渉のテーブルから取り残されることへの懸念を巧みに突いた「トランプ流交渉術」の影が色濃く反映されています。
社会・生活の変化や事例④:AI失業への警戒とブルーカラーへのシフト
テクノロジーの急速な進化に伴い、「AIに仕事を奪われる」という恐怖から、キャリアの選択を根本から変える若者が増えています。これは、従来の「大卒ホワイトカラー=安定」という物語から取り残されることへの不安が生んだ新しいFOMOの形です。 米国では、AIによる代替が進む事務職や定型的な分析職を避け、配管工や電気整備士、ヘルスケアといった「AIが代替しにくい」ブルーカラーの専門職を目指す動きが顕著です。職業訓練校への入学者が大学の伸びを上回る事態も起きています。日本でも就活生の約4割がAIの影響を考慮して志望職種を変更しており、特にカスタマーサポートや事務系職種を避ける傾向が強まっています。AIが業務の5割を代替するという予測が出る中、「今のままのスキルでは生き残れない」という焦燥感が、ITエンジニアなど「AIを使う側」への再リスキリングを急がせる要因となっています。
社会・生活の変化や事例⑤:推し活市場における「限定体験」の消費
1,300万人規模と言われる「推し活」市場においても、FOMOはファンの熱量を最大化させるために活用されています。イベントのチケットや限定グッズなど、「今この瞬間しか得られない体験」を逃すことへの恐怖が、高額な支出を支えています。 主催者側は、関連グッズを出し続けたり、複数のキャストによる公演(ダブルキャスト)を行うことで、熱心な層が「全てのバージョンを見なければならない」「一つでも逃すとファン失格である」と感じるような環境を設計しています。その結果、インフレ下であっても65%の人が「推し費を減らさない」と回答し、20代以下の若者は年間平均約20万円を投じるなど、生活費を削ってでも「乗り遅れないこと」を優先する消費行動が見られます。しかし、こうした過度なFOMOの煽りは、一部のファンを疲弊させ「推しを降りる」原因にもなっており、ビジネスとしての持続可能性が問われる段階にも入っています。







