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リスクの中心がアメリカ自身になった
毎年1月、国際政治の専門家集団であるユーラシアグループが発表する「世界の10大リスク」は、その年の政治・経済状況を見通すための羅針盤として機能しています。2026年版のランキングにおいて、最も注目すべき第一位に選ばれたのは、気候変動でもテロリズムの脅威でもなく、「米国の政治革命」という自国由来のリスクでした。
トランプ政権下において、司法やFBIの独立性が根底から揺らぎ、政治的な思惑に基づいた行政権力の運用が半ば常態化しつつあるという危機感がそこには強く反映されています。これまで世界中がアメリカという超大国の軍事力や経済力によって担保された「安定(パックス・アメリカーナ)」を享受してきました。しかし、その「世界の安定装置」であるはずのアメリカ自身が、いまや世界で最も予測不可能な「不安定さの発信源」へと変質してしまったのです。この構造変化のインパクトは計り知れません。私たちは、地政学的なリスクの中心が自らの同盟国にあるという、新しい前提に立って世界を見通す必要があります。
二位に躍り出た「電気国家・中国」と対立構造の先鋭化
そして、アメリカの内向きな変化と呼応するかのように第二位にランクインしたのが「電気国家・中国」です。かつての中国は安価な労働力を武器に世界中のあらゆる製品を大量生産する「世界の工場」として台頭しました。しかし現在の中国は、単なる製造拠点ではありません。EV(電気自動車)、AIの基礎技術、そして再生可能エネルギーのインフラという次世代のコア技術において、アメリカを凌駕し得るほどの戦略的優位性を築こうとしています。
アメリカが自国優先の姿勢を強め、世界への関与を減らしている隙を突くように、中国はエネルギーとテクノロジーによる新たな支配構造を世界に向けて着々と発信し続けています。世界のリスクをランキングとして並べてみたとき、トップ2を占めるこの二大国の「内政の大規模な変化」と「テクノロジーを軸とした力の誇示」が、結果的にグローバルな秩序を不安定化させている事実は、これからのマーケティングを語る上でも見過ごすことのできない最重要ファクターです。
連鎖する「10大リスク」が覆すビジネスの前提条件
2026年の10大リスクのリストには、他にも「トランプのドンロー主義」「包囲される欧州」「ロシアの第二の戦線」「ユーザーを食い尽くすAI」など、重苦しい見出しが並んでいます。これらのリスクを世界地図の上にプロットしてみると、大きな「連鎖」が浮かび上がってきます。

例えば、アメリカが自国の利益を最優先する姿勢を強めれば、ウクライナへの軍事・経済支援は縮小します。それはダイレクトに欧州全体の安全保障環境を極度に悪化(包囲される欧州)させます。同時に、国内消費が低迷する中国は無尽蔵とも言える国内の生産余剰を「デフレ輸出」として世界にばらまき続けています。この安価なEVや太陽光パネルの流入が各国の地元産業を破壊し、それに対抗しようとする関税の報復合戦が、自由貿易という長年のルールを無力化しつつあります。
サプライチェーンの分断や為替の乱高下は、もはや局地的な政治問題ではなく、消費者の財布と心理に直結するビジネスの直接的な課題です。さらに「ユーザーを食い尽くすAI」が示すように、莫大な投資を集めるテクノロジーが既存の産業モデルを一夜にして破壊するリスクも並行して進んでいます。こうした連鎖的な不安定さを正確に把握し、最悪のシナリオを想定しながら動くことこそが、すべての企業とビジネスパーソンに求められる新たな「生存戦略」と言えるでしょう。

