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レコノミーとは
「レコノミー」とは、リサイクル(Re-cycle)、リユース(Re-use)、レトロ(Re-tro)、リスキリング(Re-skilling)といった、英語の頭文字に「RE」がつく経済行動を総称した造語です。これまでの「大量生産・大量消費・大量廃棄」という線形経済(リニアエコノミー)に対し、モノやスキルの寿命を延ばし、価値を再定義して循環させる「循環型経済」を象徴する言葉です。
レコノミーが注目される背景には、さまざまな社会課題があります。例えば、日本ではゴミの最終処分場が2046年度に満杯になると予測されており、私たちは「モノを手に入れるチャネル」だけでなく、「適切に手放し、循環させるチャネル」を真剣に構築しなければならない局面に立たされています。また、建築家ミース・ファン・デル・ローエが提唱した「レス・イズ・モア(少ないほど豊かである)」という思想が広まり、生活者が「不足しているものを大切にすることを美しい」と感じる感性へと変化していることも、レコノミーの普及を後押ししています。
「レトロ」と「リスキリング」もレコノミーに含まれていることも注目したい点です。古いものを懐かしむのではなく、過去の優れた資産(レトロ)に最新技術を組み合わせて現代に蘇らせる「レトロフィット」や、AIなどのテクノロジーを使いこなして新たな付加価値を生むための「リスキリング」が、持続可能な社会を支える人的・物的投資となります。これからのビジネスにおいて、新品を売って終わる旧来のモデルでは顧客と長期的な関係を築くことは難しく、レコノミーの視点を取り入れることこそが、持続可能な企業運営・関係構築の鍵となります。
レコノミーが反映された社会・生活の変化や事例
社会・生活の変化や事例①:パタゴニアの「新品と中古品を並べて売る」EC体験
米アウトドアブランドのパタゴニアは、自社のECサイトにおいて新品とリユース品を統合し、両者を並べて比較・検討できるコマース体験を実現しました。これは、同社が以前から取り組んできたリセールプログラム「Worn Wear」を事業の中心に据えるための大きな前進です。
この取り組みの特筆すべき点は、ECプラットフォームの「Shopify」とリコマースシステム「Trove」を連携させることで、他ブランドでも再現可能な仕組みを構築したことです。消費者が「長く使える良いもの」を求めて中古品を選択することを肯定し、ブランド自らがその品質を保証して再販する姿勢は、新品を売るだけのビジネスモデルからの脱却を示しています。顧客は安心して「循環」のサイクルに参加でき、結果としてブランドへの信頼とロイヤリティが深まるという、レコノミーの理想的な成功事例です。
社会・生活の変化や事例②:ZARAによる「修理・再販・寄付」の三位一体プログラム
かつてはファストファッションの代表格であったZARAも、EUと米国で大規模なリユースプログラムを開始しました。このプログラムの大きな特徴は、顧客に対して「修理(リペア)」「再販(リセール)」「寄付(ドネーション)」という3つの選択肢を提示している点です。
「修理」サービスは、衣類のメンテナンスをブランド自らが提供することで、商品のライフサイクルを延ばし、ファストファッション特有の「一度着たら終わり」という使い捨て文化への挑戦を意味しています。また、再販が難しい場合でも「寄付」というチャネルを設けることで、製品がゴミとして廃棄されるのを防いでいます。環境意識の高いZ世代が「リセールバリュー(再販価値)」を意識して商品を購入する中、企業が「手放すプロセス」まで責任を持つ仕組みを作ることは、今後のファッション業界が持続可能であるための必須条件となりつつあります。
社会・生活の変化や事例③:メルカリモバイルが提唱する「データ通信量のリセール」
フリマアプリ大手のメルカリがMVNO(仮想移動体通信事業者)事業に参入して開始した「メルカリモバイル」は、物理的なモノだけでなく「デジタル資源(ギガ)」をも循環させるレコノミーの新たな形を示しました。
このサービスの核心は、余ったデータ通信量を1GB単位で売り買いできる日本初の機能です。自分のギガを余らせてしまう人と、足りない人をマッチングさせることで、「無駄を廃して資源を有効活用する」というメルカリのコンセプトを通信インフラの世界に持ち込みました。これは、データという目に見えない資産に対しても「リセール・リユース」の視点を適用したものであり、新しいモノが買われにくくなる時代において、サービスそのものをレコノミー化することで競合他社との強力な差別化を図っています。
社会・生活の変化や事例④:農業資産の「レトロフィット」と「ゲーマーのリスキリング」
農業分野では、既存の資産を活かしながら人の役割をアップデートする、レコノミーと「レトロ」「リスキリング」の融合が見られます。既存の農機を廃棄せず、後付けの自動運転システムを導入して最新のスマート農機へと蘇らせる「レトロフィット」の動きが注目されています。
この変化に伴い、求められるスキルも激変しています。米国では、自動運転システムを導入した農家が「ビデオゲーム経験者求む」と求人を出したところ、応募が殺到しました。これは、農家の仕事を「肉体労働」から、コックピットでデータを管理する「アグリテックオペレーター」へと定義し直した(リスキリングした)結果です。若者が持つデジタルスキルを一次産業の現場に転用し、古い機材に新しい知能を授けて循環させるこのモデルは、深刻な人手不足と生産性向上を同時に解決する「人的・物的投資」の好例です。
社会・生活の変化や事例⑤:フィリップスの「自宅修理」とテクノロジーによる所有コスト削減
シェーバー大手のフィリップスは、ユーザーが自宅で製品を修理できる環境を整えることで、製品の長寿命化(ロングライフ)を推進しています。同社は部品のデータを公開し、ユーザーが家庭用の3Dプリンターで必要な部品を自ら出力して交換する仕組みを提供し始めました。
これは欧州で法制化が進む「修理する権利」への対応でもありますが、同時に、壊れたら買い換えるという消費行動を「直して使い続ける」方向へと転換させるものです。また、PC分野の「Framework Laptop」やスマートフォンの「Fairphone」のように、数分で全部品を交換できるモジュール型設計を採用する事例も増えています。これらのテクノロジーは、製品を捨てるコストや新しく買う費用を抑え、結果として消費者の「総所有コスト(TCO)」を低減させます。直して長持ちさせる製品開発へと競争の軸が移る中、情報の可視化と修理技術の提供が社会全体をレコノミーへとシフトさせています。



