不足と過剰が同時に進む世界 ── 2025年11月のPEST分析

2025年11月のクリップをまとめていると、世界は「足りないもの」と「余りすぎるもの」が同時に進行する、調整が効かない局面に入りつつあることが見えてきます。それはインフレや地政学リスクではなく、制度・価値観・テクノロジーがそれぞれの速度で進み、噛み合わなくなっている状態です。

今月のPEST分析では、こうした変化を Politics / Economy / Society / Technology の4つの視点から整理してみます。

POLITICS:政治
秩序を守るための“例外”が増えていく

中国のデフレ輸出に対して、不当廉売調査や輸入規制を検討する国が増えています。自由貿易の原則は維持したいが、国内産業は守りたい。その矛盾が、各国に「例外ルール」を増やしています。

気候変動でも同じ構図が見えます。COP30は象徴的な合意にとどまり、実行力は弱まっています。一方で、中国は環境債やひも付き支援を通じて、脱炭素を地政学のカードとして使い始めています。クマ被害の急増が示すように、気候変動は環境問題だけでなく、生活と治安の問題に広がっているように感じます。

また、多党化や予測市場の拡大によって、民主主義そのものも揺らぎ始めています。北米を中心に「予測市場」が拡大し、投票行動が「予測」に影響される社会では、民意と市場の境界が曖昧になります。秩序を守るための制度が、別の歪みを生み出し始めています。

ECONOMY:経済
需要はあるのに、供給できない経済

経済面で目立つのは、「需要不足」ではなく「供給不足」です。
宿泊・飲食、建設、航空、製造業。どの業界も人手不足がボトルネックとなり、稼ぎたくても稼げない状態が常態化しています。

日本企業では30代の中堅社員が決定的に不足し、組織の厚みが失われています。一方で、インフレはユニークな発想を生み、副産物の商品化や現金限定スーパーのような逆張りモデルも登場しました。

技術では勝っているが、営業や普及で負ける。日本の課題は、需要に対する「届け方」と「生産性向上」にあることを改めて認識します。

SOCIETY:社会
生活は軽くしたいが、負担は増えていく

社会では、消費や人間関係が流動(リキッド)化しています。マッチングアプリは恋愛だけでなく、少子化対策や地域政策の一部になりました。住宅は狭くなり、スペパ対応の家電の需要が高まっています。

一方で、不登校や病院の突然閉鎖、離島インフラの危機など、「支える側」が足りなくなる問題が表面化しています。都市への老後移住が進むほど、地方の維持コストは重くなります。

パラソーシャルという言葉が象徴するように、人はつながりを求めながらも、現実の関係には疲れています。社会は効率化しながら、同時にケアを必要とする人を増やしています。

TECHNOLOGY:技術
AIは便利だが、境界を溶かしすぎる

テクノロジーは、生活の奥深くに入り込もうとしています。
スマートホームは広告メディアになり、生成AIは資産運用や家計相談の相手になります。書籍には「これは人間が書きました」という認証が価値になる時代にもなりました。

一方で、子どものSNS規制や教育DXの遅れが示すように、使う側の準備は追いついていません。最高AI責任者(CAIO)の設置が進むのは、使う側の姿勢や技術を一気に高める必要に迫られている背景がありそうです。

AIは不足を埋めますが、判断や責任の境界も曖昧にします。便利さと不安が同時に増えています。

調整ができない前提で、余白を残す設計が求めらる

不足と過剰が同時に起きる世界では、完璧な最適化は不可能です。
企業も個人も、「想定外が起きる前提」で余白を残す設計が求められます。

効率だけでなく、冗長性。
成長だけでなく、持続。

調整不能な時代において、余白を持てること自体が競争力になりそうです。


「よげんの書」は企業や個人が不確実な時代を生き抜くための道標を提供し、仕事や生活のマーケティングに投影していただけることを目的・目標として主催者の個人プロジェクトとして運営しています。

まずはぜひセミナーをご覧ください。そして「セミナーの共同開催」や、よげんの書をもとにした研修「ミライノミカタワークショップの開催」など、マーケティング活動をご一緒させていただく機会を検討いただける場合はお気軽にお問い合わせください。Driving Forceをともに掴み、未来を一緒に創っていくことができれば幸いです。

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この記事を書いた人

舟久保 竜のアバター 舟久保 竜 よげんの書|主催者

総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査に関わるとともに、2020年から師匠の「大久保惠司 氏」とともに企業のマーケター向けに毎月トレンドを発表するセミナーを継続開催する。2025年、大久保氏の逝去後に「よげんの書」をライフワークとして継続することを決意。

本業は2024年1月から株式会社フィードフォースに所属。企業のコマースサイトを顧客体験基盤やCDPとして活用するためのソリューションのマーケティングに携わる。企業と生活者がモノではなくサービスでつながるための、SDL(サービス・ドミナント・ロジック)の実現を目指す。