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60年の歴史に刻まれた「人道支援という外交ツール」の終焉
1961年のケネディ政権以来、アメリカの外交政策の中核を担ってきたUSAID(米国国際開発局)が、トランプ政権下で実質的な機能停止に追い込まれました。イーロン・マスク氏率いる政府効率化省の主導により、1万人以上の職員が削減され、海外派遣職員には30日以内の帰国が命じられています。
USAIDは冷戦期、開発援助を通じて民主主義の安定と米国の影響力拡大を目指して誕生しました。かつて、反対勢力が武器を提供して混乱を招こうとした際、アメリカは「開発と人道支援」という前向きな手段で応じたのです。年間約6兆円の予算を投じ、60カ国以上で保健・食料・エネルギー支援を行ってきたこの組織の閉鎖は、一つの時代の終わりを意味します。
東南アジアを直撃する支援停止のリアル
機能停止の影響は、既に東南アジアを中心に深刻な形で現れ始めています。タイでは避難民向けの医療機器の購入が困難になり、ベトナムでは戦争遺恨である不発弾・地雷処理の作業がストップしました。インドネシアやフィリピンでも児童教育や感染症対策(HIV等)の支援が中断され、現場では困惑の声が広がっています。
こうした「一刻を争う人道的な領域」での支援停止は、単なる予算削減以上のインパクトを地域社会に与えています。人々の命や生活に直結する部分が切り捨てられることで、長年築いてきたアメリカへの信頼が根底から崩れ始めています。
中国の台頭と「多国間支援」へのシフト
アメリカが残した「空白」を埋めようとしているのが中国です。中国は東南アジア諸国への支援を積極的に強化し、「アメリカの外交政策は信頼できない」という言説を広めることで、自国の影響力を高めようとしています。
この状況は、人道支援を一国(アメリカ)の善意や力に頼ることの危うさを露呈させました。今後は国連や他国間での協力体制によって支援を再構築していく必要があります。アメリカが「成長の余力」を失い、自国優先に舵を切った今、私たちは国際支援のあり方そのものを根本から見直す機会に直面しています。

