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2025年12月のニュースを振り返ると、世界は静かに、しかし確実に前提条件を書き換えつつあることが見えてきます。それは「危機が迫る」という話ではありません。むしろ、危機が常に背景にある状態が前提になりつつある、という変化です。
政治、経済、社会、テクノロジーのそれぞれで、これまで別々に語られてきた領域が重なり合い、境界線が薄れていく。12月は、その兆しが浮かび上がった月でした。
POLITICS:政治
平時と戦時の境界が消えつつある政治
政治の領域では、「経済成長」と「安全保障」の優先順位が入れ替わりはじめています。
欧州では国防強化に対する心理的抵抗が薄れ、日本でも防衛産業が成長分野として語られるようになりました。国防は「非常時の支出」ではなく、平時の産業政策の一部として扱われ始めています。
一方で、アフリカではクーデターの連鎖が止まらず、国際秩序の空白が長期化しています。仲裁や停戦が機能しにくい世界では、「不安定な状態が続くこと」自体が前提条件になります。加えて、注目すべきは予測市場の拡大です。人々の期待や予想が数値化され、政治的意思決定に影響を与え始めると、民主主義は「熟議」ではなく「確率」に引き寄せられていきます。
こうした動きの中で、「国家の品格」や「自治体の姿勢」といった、数値化しにくい要素が逆に重みを持ち始めている点も象徴的です。女性首長の自治体で子育て支援が進んでいるというデータは、統治のスタイルそのものが生活の質を左右する時代に入ったことを示しています。
12月の政治は、「平時と戦時」「成長と防衛」「合理と倫理」といった対立軸が溶け合い、どちらかを選ぶ時代が終わりつつあることを示していました。
ECONOMY:経済
お金は動いているが、安心は増えていない
経済の面では、数字上の活況と、生活実感の乖離が広がりつつあります。
株高を背景に高額消費は活発化し、富裕層向け市場や高級品、ラグジュアリー消費は勢いを増しました。一方で、飲食店や小売の現場では、接待や交際費の使われ方が変わり、従来の需要構造が崩れ続けています。
企業評価の軸も変わりつつあります。配当や短期利益よりも、将来の利回りや成長ストーリーが重視され、配当よりも長期金利の利率が上回る「利回り革命」の末の価値観の転換が進んでいます。このような背景を要因のひとつとして、上場を維持する意味を問い直す企業が増え、M&Aや上場廃止が過去最多水準となりました。
家計に目を向けると、現預金比率は下がり、投資に資金が流れています。これは前向きな変化に見える一方で、「守り続けることができない」という感覚の裏返しでもあります。災害大国である日本において、保険による備えが十分でないことが改めて可視化されたのも象徴的です。
経済は確かに動いています。しかしそれは、純粋な「成長への期待」だけではなく、インフレと不確実性に押し出された結果に近いものになっています。
SOCIETY:社会
支える人が報われにくい社会の歪み
社会の領域では、「誰がこの社会を支えているのか」という問いが、より切実になりました。
介護、建設、公共交通といったエッセンシャルワーカーの賃金上昇は鈍く、現場は慢性的な人手不足に直面しています。ホワイトカラーの働き手を地域に回そうという議論が出てくる背景には、支える側が限界に近づいている現実があります。
医療や社会保障でも、「すべてを守る」モデルが行き詰まりを見せています。不要な入院や効果の乏しい医療が行われているという指摘は、制度疲労を超えて、価値判断そのものの見直しを迫っています。
消費行動では、即答や即効性を求める「チョイパ」が進み、長く考えること自体がコストになりつつあります。ショッピングセンターの開業減少や、スポットワーカー活用の拡大は、固定より流動を前提とした社会設計への移行を映しています。子育て時間が男女ともに増えている一方で、「良い親」であろうとするプレッシャーは強まり続けています。支え合いは進んでいるのに、安心は増えていない。12月の社会は、そんな矛盾を抱えた姿を浮かび上がらせました。
TECHNOLOGY:技術
AIは道具から環境へ
テクノロジーの分野では、AIの存在感がさらに一段階変わりました。
対話型AIによる個人情報のリスク、広告やキャラクター産業への本格的な導入、炎上を承知でAI活用を続ける企業の姿勢などから見えてくるのは、AIが「選択肢」ではなく「環境」になりつつあるという現実です。同時に、AI時代だからこそ哲学や倫理の学びが求められるという動きも広がっています。効率や最適化だけでは判断できない領域が増え、人間側の価値基準が改めて問われています。
歓楽街や感情労働の現場でAIが使われ始めていることも象徴的です。人が抱え込んできた感情の負荷をどう分配するか、という問いでもあります。AIは人間を置き換える存在ではなく、人間社会の歪みを増幅して映し出す鏡になりつつあります。
「戻れない」前提に立つということ
2025年12月のPESTを通して見えてきたのは、
「いずれ元に戻る」という発想が、成り立たなくなってきているのかもしれないという気づきです。
平時と戦時、成長と防衛、効率と倫理、安定と流動。
これらは対立する概念ではなく、同時に抱え込むものになりつつあります。
世界は静かに、しかし確実に、
「不確実性を前提に設計し直すフェーズ」に入っています。
2026年は、その前提にどこまで本気で向き合えるかが、国や企業、そして個人の分かれ道になる年になるのかもしれません。

