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これまで標準とされてきた前提が、9月はいくつもの場面で見直されました。お金の面では、長期金利が30年ぶりに3%に達し、借りる側が金利の負担を前提に計画を立てる時期に入っています。暮らしの面では、単身世帯が初めて4割を超え、夫婦と子どもの世帯を基準にした手当や税の仕組みとのずれが指摘されました。
技術の分野では、AIが90年以上解かれていなかった数学の問題を解いたと発表されました。ただ、成果の発表の仕方をめぐって数学者から批判も出ています。新しい能力が出てきたとき、その扱い方のルールは後から整えることになります。
以下では、9月末までに収集した記事をもとに、政治・経済・社会・技術の動きを整理します。
POLITICS:政治
AIや報道、財政をめぐり、大国のやり方に歯止めを求める声が強まる
9月24日、ワシントンで米中首脳会談が開かれました。AIについて対話を続けることでは一致しましたが、国際的な規制には踏み込みませんでした。トランプ大統領は直前の国連総会で、AIを規制する国際的な試みを拒否すると述べています。
このAI開発競争は、米ソの核開発競争にたとえられることがあります。ただし、AIは国ではなく民間企業が開発の中心にいます。開発の速度も速く、核兵器のように時間をかけて管理の仕組みを作る余裕はありません。広島・長崎への原爆投下から核拡散防止条約の発効までは、25年かかりました。まずは事故の報告や危機対応の仕組みから始めるべきだという専門家の意見もあります。
米国内では、政権と報道機関の対立が強まりました。政権はCNNなど3社の記者を取材から締め出し、連邦地裁は24日に措置の一時差し止めを命じました。主要テレビ局は代表撮影を取りやめ、習近平国家主席の歓迎式典を中継しませんでした。政権に近いFOXニュースも加わっています。排除の措置はその後解除されましたが、取材への支障はなお伝えられています。ホワイトハウスは、過去の演説などを24時間流す「トランプTV」を立ち上げました。
国連では、地図の描き方も議題になりました。総会は国の大きさをより正確に示す地図の普及を促す決議を採択しました。日本を含む164カ国が賛成し、反対は米国だけでした。よく使われるメルカトル図法では、グリーンランドとアフリカが同じくらいの大きさに見えます。実際には、アフリカの方が14倍大きいとされます。決議に拘束力はありませんが、フランス外務省は外交の場でこの図法を使わないと決めました。身近な地図にも、どの地域を大きく見せるかという見方が含まれていることが改めて意識されました。
国の財政にも、市場の目が向いています。2027年度予算の概算要求は143兆円前後と過去最大になりました。財務省は国債の利払い費を見積もる金利を3.8%としていますが、さらに上がる可能性も指摘されています。金利が低かった時期のように、借金を増やしても負担が目立たない状況ではなくなりました。英フィナンシャル・タイムズのコラムは、日米欧をそれぞれ融資の審査を受ける借り手にたとえています。30年物国債の利回りは、日本で4%を超えました。
どの動きも、力のある国や政府の判断が、市場や裁判所、ほかの国々から点検されている点で共通しています。企業にとっては、取引先の国の財政や報道の状況を、事業の前提として確かめておくことが大切になります。
参考記事
- AIに広島と長崎の警鐘
- 米中打算の接近(上) AI覇権争い「囚人のジレンマ」
- 米政権とメディア、対立激化 「出入り禁止」CNNを威圧
- 「メルカトル図法」批判決議 国連「国の大きさ不正確」
- 長期金利3%の警鐘(2)財政拡張に市場の風圧
ECONOMY:経済
金利の上昇でお金の流れが変わり、家計は買い方を細かく見直している
金利が上がると、お金を借りる側の条件が厳しくなります。9月はその影響が、国債から住宅、日々の買い物まで広く見られました。
米国では、AIのデータセンターに投資する巨大テックが、償還まで20年を超える社債を多く発行しています。2026年1~8月には、この期間の社債の発行額が米国債を上回りました。社債の利回りが国債より高いため、投資家の資金の一部が社債に移っているとみられています。企業の資金調達が、国の借り入れにも影響し始めたということです。米30年国債の利回りは5.3%台と、2007年以来の水準にあります。ただ、7月のアマゾンの大型起債では、集まった需要が発行額の1.6倍にとどまりました。買い手が無限にいるわけではありません。
日本では、日銀が18日に政策金利を1.25%に引き上げました。植田総裁は、物価が上がりすぎないように抑える段階に入ったと説明しています。個人向け国債の固定5年物の利率は2.24%と過去最高になり、預金の代わりとして関心を集めています。
住宅では、資材費や人件費の上昇も重なっています。大和ハウス工業は、新築戸建ての営業を東京や大阪などに集め、23道県から撤退すると発表しました。自由に設計できる注文住宅は、5000万円以上の物件に限ります。注文住宅の建設費の全国平均は2025年度に4259万円で、2011年度から5割近く上がりました。注文住宅は、都市部で予算に余裕のある人向けの商品になりつつあります。
家計の側では、支出の見直しが細かくなっています。政府は2027年4月から2年間、食料品の消費税率を1%に下げる方針です。外食の店内飲食は10%のままです。これを見据え、ファミリーマートは朝の時間帯に、パンやおにぎりとコーヒーをセットで割り引く取り組みを始めました。来店客数が前年を下回り続けるなか、朝に立ち寄る習慣をつくる狙いです。
天候も家計に響きました。長雨と日照不足で、9月中旬のレタス類の卸値は前年より8割高くなりました。9月の東日本太平洋側の日照時間は、1946年以降で最も短くなりました。店頭では、代わりに豆苗を買う人も出ています。
中古品の売り場では、扱う品目を絞った店が増えています。リサイクルショップの2025年度の売上高は19%増え、専門店の業種別で最も伸びました。セカンドストリートは家具や楽器、アウトドア用品の専門店を出し、特定のブランドだけを扱う古着店も現れました。
金利も物価も上がるなかで、消費者は時間帯や品目ごとに、お金を使う先を選んでいます。企業には、誰のどんな場面に向けた商品なのかを、これまで以上に具体的に示すことが求められます。
参考記事
- AI社債が米国債を侵食 米金利に「逆クラウディングアウト」
- 日銀利上げペース加速 総裁、物価抑制へ「局面変化」
- 大和ハウス、新築戸建て受注絞り込み 5000万円以上に
- 朝食商戦 コンビニの陣 ファミマがセット割
- レタス類卸値8割高 日照不足で供給減
SOCIETY:社会
単身世帯が4割を超え、家族を前提にした制度とのずれが目立っている
9月29日に公表された2025年の国勢調査では、単身世帯の割合が41.4%となり、初めて4割を超えました。18~34歳の未婚者で「一生結婚するつもりはない」と答えた人も、男女ともに初めて2割を超えています。
一方で、会社や国の制度は、夫婦と子どもの世帯を標準として作られてきました。人事院の調査では、企業の7割強が家族を養う社員に手当を出しています。同じ仕事をしていても、家族の有無で年収に差が出ることがあります。年収500万円台の世帯で比べると、税と社会保険料の負担率は、夫婦のみの世帯より単身世帯の方が約3ポイント高くなりました。
年金でも差があります。会社員に扶養される配偶者は、保険料を納めなくても基礎年金を受け取れます。同じ年収で同じ保険料を払っても、単身者の年金は月7万円ほど少なくなります。東京大学大学院の神吉知郁子教授は、家族手当が同じ仕事への対価の差となり、不公平感を生んでいると指摘しています。
ここで大切なのは、子育て支援を減らすべきだという話ではない点です。連合の芳野友子会長は、子育て支援は大切だとしたうえで、企業ではなく国が社会保障として担うべきだと述べています。家族の形にかかわらず、負担と支援の釣り合いが見えることが求められています。
男女の格差も、大きくは縮まっていません。世界経済フォーラムの調査で、日本は145カ国中117位でした。初の女性首相の誕生で政治分野は改善しましたが、経済分野は順位を下げています。
教育でも、平均点だけでは見えない課題が示されました。OECDの調査で、日本の15歳は3科目ともトップ級の成績でした。ただ、「物事の仕組みを知ることが好き」と答えた生徒は59%で、OECD平均の74%を下回っています。学力の高さと学ぶ意欲は、必ずしも一致しません。AIの使い方による差も見えてきました。文章の要約や下書きにチャットボットを毎日使う生徒は、ほとんど使わない生徒より成績が学校教育1年分ほど低い傾向がありました。
働き方では、長く働ける人を前提にしない工夫が出ています。ステーキのあさくまは、4時間ほど店長の仕事を任せる「スキマ店長」の採用を始めました。定年後の元店長や、育児などで仕事を離れた人の経験を生かす狙いです。飲食店の店長の29%が週60時間以上働いているという調査もあります。介護の分野では、資格を持つ人に短時間の仕事を仲介するカイテクが、売り上げを2年で16倍に伸ばしました。
企業にとっては、手当や評価、勤務時間を、特定の家族像や働き方に寄せすぎていないかを確かめることが課題です。制度の公平さは、人材の採用や定着にも関わってきます。
参考記事
- 「一生結婚しない」2割超 25年調査、望む子どもの数も減
- 独身スルー「標準世帯」の限界(2)結婚有無、年収差100万円も
- 独身スルー「標準世帯」の限界(3)税や社会保障で疎外感
- 理数5位・読解4位、学力は高いが… 日本の15歳、好奇心低く
- スキマ店長採用で長時間労働是正 ステーキのあさくま
TECHNOLOGY:技術
AIが数学の難問を解き、成果の扱い方が問われている
米オープンAIは9月8日、流体の動きを表す「ナビエ・ストークス方程式」に関する難問を解いたと発表しました。賞金100万ドルがかけられた7つの難問の一つで、約1万体のAIを約88時間連携させて解いたと説明しています。同じ日には、ニューヨーク大学の教授も、AIを使って同じ種類の問題に取り組んできたとする声明を出しました。
この発表には、数学者から批判が出ました。同社は、別の研究者が解決に近づいているとの情報を得てから、この問題に取り組んだと説明しています。フィールズ賞の受賞者らは声明を出し、受賞者の一人は、成果を直前に大企業に持っていかれるなら、研究者は研究の内容を共有しなくなると指摘しました。同社はその後、成果の公表にあたって外部の数学者から助言を受けるとしています。
AIの能力そのものより、成果を誰のものとし、どんな手順で公表するかが問題になっている点に注目したいところです。研究の世界では、途中の考えを共有しながら進める習慣が成果を支えてきました。その習慣を損なわない進め方が求められています。
AIの開発の速さも、こうした摩擦の背景にあります。米中の主要9社が新しいモデルを出す間隔は、2026年4~9月に平均44日と、それまでの約3分の1に縮みました。アンソロピックは、自社の研究開発の26%をAIが主導していると公表しています。
日本では、工場の機械のデータを集める取り組みが動き出しました。政府とDMG森精機、コマツなどは、メーカーの違う産業機械に共通の番号を割り当て、稼働データをまとめて集めます。データは匿名にしたうえで、当面は国産AIの開発に使う方針です。ロボットを自律的に動かすAIには、現場の動きを記録したデータが欠かせません。中国のヒト型ロボットの競技会でも、100メートル走は速い一方、食卓の片付けのような細かな作業には苦戦しました。
AIが情報の入り口になったことで、新しい問題も出ています。犯罪グループが検索結果を操作し、生成AIの回答に偽の通販サイトを紛れ込ませる例が報告されました。トレンドマイクロによると、1~8月に生成AI経由で不正なサイトに流れたアクセスは、少なくとも6969件ありました。AIの答えをそのまま信じず、ほかの情報と照らし合わせることが必要です。一方で花王は、AIに推薦されやすい情報発信の指針を作るとしています。
企業にとっては、自社のデータや発信する情報が、AIにどう使われるのかを確かめておくことが大切です。データを出す範囲と、偽サイトなどによる悪用への備えを、あわせて考える必要があります。
参考記事
- AI進化の新段階 数学の超難問を解決
- 成果横取り、数学研究阻害 フィールズ賞教授、オープンAIを批判
- 米中AI開発「自己進化」 新モデルまで44日、従来の3分の1
- 産業機械に「マイナンバー」 フィジカルAIのデータ、官民で収集
- 生成AI回答に偽サイト 犯罪グループ、検索結果を不正操作
「標準」に頼らず、それぞれの条件で判断する
9月の動きを振り返ると、これまで標準とされてきた前提が、いくつもの分野で見直されています。金利が低いことを前提にした借り方、夫婦と子どもの世帯を前提にした制度、平均点で測る教育、そして成果の扱い方が決まる前に進むAIの開発です。
こうした変化のなかで役に立つのは、平均や慣例ではなく、それぞれの条件を確かめたうえで判断することです。金利の負担を見込んだ計画を立てる。顧客や従業員の暮らし方の違いを、商品や制度に反映する。AIを使うときは、データの出し方と成果の扱い方を決めておく。こうした確認を一つずつ重ねることが、変化の大きい時期の備えになります。

