この記事は、トレンドの原動力を探るマーケティングセミナー「よげんの書」で発表した「よげん」をトピックごとに解説した記事です。よげんの書のウェブサイトから無料セミナーのお申込みや、講演資料やアーカイブ動画をご覧いただけますので、ご関心ありましたらお申込みください。
国際的な法規制の強化が使い捨て消費と格安ビジネスモデルを阻む
2026年7月31日、欧州連合(EU)においてスマートフォンや生活家電を対象とした「修理する権利(Right to Repair)」指令の適用が正式に開始されました。この法制化により、メーカー各社は製品の販売後も一定期間にわたり、修理用部品やマニュアルを適正な価格で消費者や独立系修理業者へ提供することが義務付けられました。壊れたら新品へ買い替えさせることを前提に最適化されてきた従来の大量消費型ビジネスモデルは、法的な包囲網によって根本的な修正を迫られています。
同時に、格安品を大量に製造して海外へ送り込むビジネスモデルにも強烈な逆風が吹き荒れています。米国、EU、そして東南アジア各国が、これまで少額の越境EC貨物に適用してきた小口輸入関税の免税措置を相次いで撤廃しました。超低価格のファストファッションを武器に急成長を遂げたSHEIN(シーイン)は、関税負担の増加と法規制の強化により収益構造が圧迫され、株式上場を果たしたものの、その時価総額はピーク時の4分の1にまで急減しました。
アップルや任天堂といった主要ハードウェアメーカーも、製品の設計段階からモジュール構造を採用し、バッテリー交換や主要部品の自前修理を容易にする仕様変更を進めています。製品の長寿命化と修理の容易さが市場における新たな競争力となる中、新品の使い捨てを前提とした消費構造は世界的な転換点を迎えています。
インフレに抗する消費者の生活防衛がリユース市場を急伸させる
国際的な環境規制の強化と歩調を合わせるように、インフレが定着した日本国内の消費現場においても、中古品に対する生活者の意識が劇的に変化しています。2025年度における国内専門店市場の総売上高が過去最高となる30兆円の大台を突破する中、全業種の中で前年比19%増という突出したトップの成長率を記録したのがリサイクルショップ業界でした。
専門店の約6割が仕入れコスト高を背景に商品の値上げを実施または予定する一方で、全体の約4割の店舗が客数の減少に直面しています。新品の相次ぐ価格引き上げが生活者の買い控えを引き起こす中、家計防衛の受け皿として中古品やディスカウント業態へ需要が急速に集中しています。
特筆すべきは、生活者の購買行動が単なる「消極的な節約」から、資産を能動的に管理する「循環型の消費」へと進化している点です。不要になった衣料品やデジタル機器をリユース店で売却して現金化し、その資金を原資にして状態の良い割安な中古品を購入するというライフスタイルが幅広い世代に定着しました。リユースはもはや隙間産業ではなく、家計消費を支える小売の堂々たる主役へと浮上しました。
コンビニエンスストアがリユース回収の巨大インフラへと進化する
このリユース経済の主役化を日常生活のレベルで推し進めるのが、コンビニエンスストア大手・ファミリーマートによるインフラ開放です。同社は中古本・リユース大手のブックオフコーポレーションと全面的に提携し、全国約1万6000店舗のファミマ店頭を活用した中古品の持ち込み引き取りサービスを開始しました。
メルカリなどのフリマアプリはリユースの裾野を広げたものの、出品物の写真撮影や詳細な説明文の作成、購入希望者との個別価格交渉、梱包・発送といった煩雑な作業がハードルとなり、利用を敬遠する潜在層が依然として多く存在していました。近所のコンビニ店頭や専用ロッカーに不要品を持ち込むだけで査定・換金が完結する仕組みは、これら未開拓の出品者を一気にリユース市場へ引き入れる導線となりました。
さらに、コンビニ側にとってもこの取り組みは極めて合理的な成長戦略です。不要品を持ち込んだ来店客が店内で飲料やおにぎりを購入する「ついで買い」を誘発し、頭打ちとなっていた来店動機を再創出する強力な武器となっています。かつて宅配便の受付、銀行ATM、淹れたてコーヒーの提供によって生活インフラ化を果たしたコンビニが、次に組み込んだ成長エンジンこそがリユースでした。利便性と持続可能性が結びついた循環経済の基盤が日常に定着しています。


