この記事は、トレンドの原動力を探るマーケティングセミナー「よげんの書」で発表した「よげん」をトピックごとに解説した記事です。よげんの書のウェブサイトから無料セミナーのお申込みや、講演資料やアーカイブ動画をご覧いただけますので、ご関心ありましたらお申込みください。
コスパ・タイパに続く第3のパフォーマンス指標
コストパフォーマンス、タイムパフォーマンスに続いて注目されているのが「チョイパ(チョイスパフォーマンス)」です。どれだけ良い選択を、どれだけ少ない負荷でできるか。情報爆発の時代に育った若者たちが、選択そのもののコストを最小化しようとする行動原理を表しています。
背景にあるのは圧倒的な情報量です。世界のデータ通信量は2010年から2024年の14年間で87倍に拡大しました。アメリカでは情報過多が年間140兆円の機会損失を生んでいるという推計もあります。こうした環境で育ったα世代は、AIに好みと予算と条件を伝えて3つの候補を出してもらう──自力で何ページも比較検討する無駄なエネルギーは使わない、スマートな意思決定スタイルへ移行しています。
「考察文化」が映す若者の心理:報われたい消費
チョイパ志向の根底にある心理を読み解くヒントが、三宅香帆氏の著書『考察する若者たち』にあります。ドラマや映画に対して曖昧な批評よりも、作者の意図を当てる「考察」が好まれる現象。これは正解探しを好む心理であると同時に、「参加すれば報われる行動」でもあるという指摘です。考察動画を作ればPVが回り、考察コミュニティで正解を出せば承認される。
将来への期待を持ちにくい世代にとって、消費は「楽しい」以上に「報われるかどうか」が問われます。萌えが感情消費だった平成に対し、推しは応援という行動で報われる設計が令和の消費文化の中核になりました。お金を使うなら確実にリターンが欲しい。購入後に「報われた」と感じられる体験をどう設計するかが、マーケティングにおける重要な課題になっています。
レス・イズ・モア──選択肢を絞る勇気
GoogleのジグソーによるプロジェクトWe the Peopleは、チョイパ時代のAI活用を見事に体現しています。2,400人分160万語の意見をAIで26の主要な主張に整理し、賛成か反対かの二択ではなく、ニュアンスを保ったまま中間的な合意を可視化する試みです。
たくさんの選択肢を並べて「お客様にお選びいただく」という従来のマーケティングは、チョイパの時代には逆効果になりかねません。増やすのではなく引く。足し算ではなく引き算で豊かさを作る「レス・イズ・モア」の発想が、情報過多の社会でこそ求められています。的確に絞り込まれた選択肢を提示し、顧客の背中を押してあげること──そのキュレーションの責任と美学こそが、AI時代における企業の唯一無二の価値へと昇華していくのです。

