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エンゲル係数44年ぶりの高水準が示す「メリハリ消費」
2025年の消費支出は名目で微増したものの、食料費は6年連続で実質マイナスを記録しました。一方でエンゲル係数は28.6%にまで上昇し、1981年以来44年ぶりの高水準です。コメ、パン、食品全般でより安価な商品へのシフトが明確に広がっています。
しかし興味深いのは、旅行や外食といった「ハレ消費」はむしろ増加しているという事実です。日々の食卓は極限まで切り詰める一方、記念日のディナーや特別な体験にはしっかりお金を使う凄まじい「メリハリ消費」が鮮明になっています。限られた可処分所得の中でいかに最高の満足度を引き出すか──企業は「削られない強烈な理由(価値)」を提供できるかを厳しく問われています。
車はますます「手が届かない存在」になりつつある
インフレの波は食卓から耐久消費財へ波及しています。カローラは10年前から6割、ノートは7割値上がりし、軽自動車ですら200万円を超える時代です。新車販売価格の上昇は賃金の伸びを大きく上回るペースで進んでいます。安全基準の厳格化や燃費規制への対応、電子部品の高騰などメーカー側の事情はあるにせよ、消費者にとって車はますます手が届きにくい存在になっています。
金利の上昇はローンの負担をさらに重くし、残価設定ローンも金利上昇と将来の下取り価格の不確実性というダブルパンチでリスクが顕在化しています。カーシェアの利用枠拡大が示すように、「所有から利用へ」のスタイル移行は車に限らず、住宅、家電、あらゆる消費カテゴリーへと波及していく可能性があります。
サービス価格の上昇が意味する「インフレの定着」
注目すべきは、インフレの牽引役がモノからサービスへ移り始めている点です。美容院、クリーニング、タクシー。外食は4年以上連続で前年同月を上回り、宿泊料も6%上昇しています。賃上げが広まり、人件費がサービス価格に転嫁されることで、「賃上げ→物価上昇→さらなる賃上げ」というインフレのループが回り始めています。これは一時的な値上げではなく、インフレが日本経済に構造的に定着する兆しです。
「後回しにするほど高くなる」時代の行動原則
デフレの時代には「待てば安くなる」という判断が合理的でした。しかし今は明確に違います。待てば待つほど高くなる。必要なものは前倒しで動くことが、個人の消費においても、企業の投資判断や採用においても、合理的な行動原則になりつつあります。「もう少し様子を見よう」と言っている間に、すべてのコストは上がり、人材は他社に流れていく。インフレの構造化は、私たちの時間感覚そのものを変える力を持っています。

